弦の位置が出たら、弦を張る前に、もっとも大切なスペーサーを入れます。
見えない部分の最後の仕事です。
響板が接着されているベリーレールとピン板との間は、フリースペース。
弦の引張っる力で、この隙間は狭くなります。
どんなに丈夫な木材で厚めに作っても、90センチ近くの直線の隙間は、必ず狭く変形して来ます。
対策は、2つ。
隙間を広めに取るか、隙間に、つっかえる部材を取り付けるか。
このつっかえる部材をギャップスペーサーといい、隙間を狭くさせない役割と、レジスターが乗っかる役割を果たしています。
隙間が狭くなると、まずレジスターが動きにくくなります。
やがて、動かなくなります。
このスペーサーを木製で二箇所程度のみという、非常に脆い楽器に何度も出会い、それらは弦を全て外してオーバーホールになりました。
木製のスペーサーは、変形するとジャックに接触して動かなくなり、最後は音が出ないどころか、鍵盤が押せなくなります。
そうしたトラブル回避だけでなく、このスペーサーが丈夫であることによって、弦の振動エネルギーの損失が減ってきます。
私は、鉄のスペーサーを作り、今回は6箇所に設置。
バック8の弦とフロント8の弦の間に正確に位置するように、線を張って現物合わせします。
今回の楽器は、金属弦ではなく、フロロカーボン系。
弦の太さや材質は音を出しながら決めるので、最終的にどれだけの張力がかかるのか未定です。
武満徹は少年の頃、防空壕の中で紙鍵盤を広げて弾いていたそうですが、その時、本物のピアノより素敵な音が聴こえていたそうです。
私も妄想力が逞しいタチなので、この弦を張る直前が最もワクワクできる時間です。
弦を張って音が出始めると、厳しい現実が待っています。
ただ、幸いにもレッズが頑張っているので、メゲずに現実と向き合えそうです。
(10/11 加屋野木山)